どれくらいの間泣いていたのだろう。突然背後から声がした。
「元気出せよ」
聞き慣れない、でも、優しい、男の人の声。頭の中に「？マーク」がたくさん現れたけど、その声に不思議と心が落ち着いた。
「誰？」
私はゆっくりと頭を起こした。いつの間にか日は傾き、海も空もオレンジ色に染まっていた。そしてそのまま振り返ろうとしたら、二、三度頭を優しくぽんぽんとされた。少しの懐疑心と大きな安らぎを覚えた。でもやっぱり怖くて思い切って後ろを振り返った。そこには見覚えのない、私と同い年くらいの男性が、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。制服を着ているが、どこの学校かは分からない。さっきよりもたくさんの？マークで頭の中が埋め尽くされた。その次の瞬間。
「そら…」
私の名前を呼ばれた。さっきと同じ笑顔だけど、少し悲しいような表情も混じっていた。思い切り目が合ってしまった。そして、
「そら…」
そのままの表情でもう一度…。なんで私の名前を知ってるの？誰なの、一体？さっきまでの安らぎに似た感情はどこかに吹き飛んでしまい、背中の辺りにゾクゾクと寒気が走った。
「し、失礼します…」
私は恐怖で全身に力が入らなかったが、必死の思いで立ち上がると逃げるように自転車をとめている駐輪場へと走っていった。怖くて後ろを振り返れなかったが、追ってくる気配もしなかった。
なんとか駐輪場に辿り着くと、その周りを囲んであるブロック塀に「ストーカー注意」という張り紙がいくつも並んでいた。さっきの「そら…」という声を思い出して身震いした。私は自転車の鍵を取り出すと、急いで自分のとめた所に向かった。
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